SEO監査ツールをサイトに繋ぐと、警告の一覧が出ます。件数の多い順に並んでいるので、普通ならそこから着手します。この順番で進めると、価値の無い大量のページを直して、本当に重い1件を見逃します。
結論から書きます。監査ツールの出力は入口であって、タスクリストではありません。件数は「異常の量」であって「問題の重さ」ではないからです。作業の一覧にする前に、次の3つを挟みます。
- 母集団を確認する:ツールが本当にサイトの全ページを見たかを別の方法で確かめる
- 中身を開く:警告の数件を実際に開き、手を入れる価値があるかを確かめる
- 重さで並べ替える:件数ではなく、放置したときの損失の大きさで並べ替える
この3つを飛ばして件数の多い順に着手すると、作業の時間がいくらあっても足りません。しかも、重い問題は件数の少ない警告の裏に隠れています。
この記事は、散らかったサイトをAIで作り変えるマニュアルの診断の作業の1つです。前の作業「サイトに必要なのは大規模・中規模・小規模どの修正か」で規模ごとの対象の一覧を作ったあと、監査ツールの出力をどう扱うかをここで決めます。
目次
この作業で決まること
この作業が終わると、監査ツールの警告の一覧から、実際に作業する対象の一覧が出ます。両者は別のものです。
ツールが出す警告は、たとえば「メタディスクリプションが空」「リンク切れ」「見出しの階層が飛んでいる」といった、機械で数えられる項目です。数えられるかどうかと、直す価値があるかどうかは別の話です。ここを分けないと、ツールの出力の量に引きずられて、価値の無い作業に時間を使います。
よくある失敗:警告の件数をチームの進捗の指標にすること。件数を減らすこと自体が目的になり、タグのアーカイブのメタディスクリプションを埋める作業に時間が溶けていきます。
前提:この記事の前に必要なもの
- AIにSEOを任せる前に渡す4つの前提
- 全記事の台帳をライブで取れる状態
- Search Console のデータをAIが読める状態
- 監査ツール(Ubersuggest、Screaming Frog など、公式の手順でサイトをクロールできるもの)
ツールの選び方には踏み込みません。どのツールを使っても、出力の扱い方は同じです。
AIに渡すもの
- 監査ツールの出力の CSV:警告の項目名・該当のURL・警告の重さ(ツールが付けている低・中・高の印)
- サイトの台帳:URL・タイトル・カテゴリ・公開日・noindex の有無・テンプレートの種類(記事かタグのアーカイブか、など)
- 判断の基準:どの警告の種類を「重い」とみなすか、警告のうち何件を実際に開いて確かめるか
AIに任せるのは、警告のURLと台帳を突き合わせ、タグのアーカイブやページ送りのURLを警告から外し、残りを警告の種類ごとに並べ替える作業です。「どれが重いか」の最終判断は人が決めます。重さの基準を数値で書けないうちは、ここをAIに任せません。
手順
- ツールが母集団を全部見たかを確かめる
ツールの設定で、クロールの上限(URLの最大数)を確認します。上限に達した表示があれば、サイトの全URLがまだ見られていません。別の経路(サイトマップのXML、WordPress の REST API の投稿一覧)で全URLの数を取り、監査の対象の数とそろうかを確かめます。
- 警告の項目名を一覧にする
件数の順ではなく、項目名だけを並べます。この時点では件数を見ません。
- 項目ごとに「このサイトで直せる対象があるか」を判定する
タグのアーカイブ、ページ送り、著者ページ、添付ファイルのページは、管理画面に入力欄が無いことがあります。手を入れられないURLは、警告の件数から外します。
- 残った警告について、数件を実際に開く
警告の中身を開き、放置したときに何が起きるかを言葉で書きます。言葉で書けないものは、重さを「不明」にします。
- 重さで並べ替える
「検索結果の表示に出る誤情報があるか」「クリックの先が壊れていないか」「お金に関わる表示があるか」で、重い・中・軽いに分けます。件数は並べ替えの軸にしません。
- 自動で直せる範囲を切り分ける
メタディスクリプションや alt の不足は、台帳を見て毎日の自動処理で埋められます。タイトルや構造の問題は週1回、性能の高いモデルで判断します。
- ツールが検知できない領域に、自分の記録を残す
監査ツールが検知できないのは、「空ではないが中身が壊れている」領域です。テンプレートに自動で文章が流し込まれるページでは、ツールは「メタディスクリプションあり」と判定します。中身が制御を失っていても、警告は出ません。公開した時点のスナップショット(HTMLをそのまま保存したファイル)を残しておくと、あとから中身が変わっていないかを比べられます。
完了条件
- ☐ 監査ツールの対象の数と、サイトの全URLの数が、別の経路で一致している
- ☐ 警告の項目のうち、手を入れられないURLを含むものは件数から外してある
- ☐ 残った警告の中身を数件開き、言葉で重さが書いてある
- ☐ 件数ではなく、重さの順に並べ替えた一覧がある
- ☐ 自動で直せる範囲と、人が判断する範囲が分かれている
実際に起きた失敗
一番件数の多い警告が、ほぼ空振りだった
勤務先のサイトの監査で、警告の最大の項目は「メタディスクリプションが空」でした。件数の順に並べると、ここから着手するのが自然です。
中身を開くと、ほとんどがタグのアーカイブとページ送りのページで、管理画面に入力欄すらありませんでした。実際に手を入れる価値があったのは、全体のごく一部でした。残りを埋める作業に時間をかけても、サイトの検索の実績は変わりません。
一方、ツールが軽い扱いで出した「リンク切れ」の項目の裏には、販売を終了した商品の構造化データが生きていて、検索結果に「在庫あり」と申告し続けていました。リンクの先は404でした。件数は1件ですが、放置したときの損失は、空のメタディスクリプションの数十件分より大きい状態でした。
ツールは機械で数えられることしか数えません。空かどうかは数えられますが、そのページに価値があるかは数えられません。件数と重さを分けないと、重い1件を見逃します。
「全部スキャンした」が、全部ではなかった
別の作業で、勤務先のサイトのドキュメントを一覧APIで取り、全件を監査して「全ページがきれいになった」と宣言しかけたことがあります。あとで確認すると、一覧APIがページングに対応しておらず、途中で打ち切られていました。カーソルを辿ると、見ていなかったURLが残っていました。その中に、古い基準のまま公開されていた、是正が必要なページが混ざっていました。
一覧の返り値は、見た目が揃っているほど「これで全部」と錯覚します。欠落に気づいたのは、是正後にもう一度一覧を取ったときに、並びが変わって別のURLが見えたという偶然でした。
監査の正しさは網羅性に依存します。網羅性は、母集団の列挙が完全であることが前提です。ここを確かめないと、丁寧に各URLを処理しても結論は誤ります。最初に問うのは「対象は何件で、それを全部見たことを何で保証するか」です。
ツールが検知できない消失があった
同じ監査の時期に、カテゴリのまとまりのページで、メタディスクリプションに相当する説明文が消えている状態がありました。ツールは「空ではない」と判定していました。テンプレートが本文の冒頭を自動で流し込んでいたので、文字が入っているように見えたからです。実際には、意図せず本文の断片が検索結果の説明文の位置に出ていました。
消えたことに気づけたのは、数か月前に自分たちが取ったスナップショットが残っていたからでした。ツールが見つけたのではなく、過去の自分の記録が見つけました。ツールが見ない領域には、自分で定点の記録を残します。
よくある質問
Q. 件数が多い警告は、無視していいのですか?
A. 無視しません。件数で並べ替えるのを止めるだけです。中身を開き、手を入れられる対象があるかを確かめた上で、重さの順に並べ直します。価値のある対象が残れば、自動で直せる範囲に入れて毎日の処理に回します。
Q. ツールの警告の重さ(低・中・高の印)は信じていいですか?
A. 入口の目安にはなりますが、そのサイトの事情を反映しません。たとえば「リンク切れ1件」は一般には中程度でも、そのリンクの先が検索結果に表示される構造化データのURLなら、放置したときの損失は大きくなります。印は参考にしつつ、自分のサイトの文脈で並べ替えます。
Q. 母集団の確認は、毎回やりますか?
A. 監査の対象の範囲を変えたとき、サイトの構造を変えたとき、ツールの設定を変えたときは、必ずやります。それ以外のときも、監査の結果を元に「全URLがきれいになった」と宣言する前には、別の経路で全URLの数を取り直して突き合わせます。
